四畳半の記憶

リノベーション希望のお施主さん(おばあちゃん)との思い出話です。その案件は都内にある木造2階建30坪の住宅を二世帯にする計画でした。打合せの為、居間に通して頂きましが、私はそこで奇跡のような四畳半に出会いました。コタツ、茶箪笥、仏壇、テレビ‥およそ生活に必要なものが見事にきっちりと四畳半に納まり、そして全てが品よく居住まいが美しいのです。端的に言えばその四畳半はおばあちゃんそのものでした。窓の外は一畳ほどの苔むした坪庭です。柔らかな秋の日差しの中、おばあちゃんに入れて頂いたお茶は不思議なほど甘く感じました。「この部屋はこのままでいいのよ」その台詞を聞いた時、なんだか胸が熱くなった事を覚えています。

 

私は、建築設計は「物づくりではなく、事づくり」であると考えています。おばあちゃんと共に生きた奇跡の四畳半は正に私の理念を具現化したような空間でした。そして今も私の設計活動の糧となっています。

O邸、四畳半の客間。床に座って落着く空間としたく、窓の高さを低く設定した。